明日の文化祭のために、今日は一日、学校中が準備に追われる。


私は委員の仕事とクラスの出し物の準備で、朝から走り回っていた。



『次はなに?』

隣を歩く柚樹先輩が聞いてくる。


私は左手の親指あたりにびっしりと書かれたメモを見ながら、
『音響のチェックです』
と答える。



柚樹先輩目当てで委員になった子達は柚樹先輩にぽーっとして、ほとんど仕事が進まなかった。


おかげで私は実質、副委員長になって、柚樹先輩の補佐をしていた。


柚樹先輩は私の親指をチラッと見て、


『ねぇ、それってもちろん水性で書いてるよね?』

『え…?水性?』

私は右手の人差し指でごしごしとこすってみる。

『わっ、やだ!消えない!どーしよー』


焦ってごしごし強くこすっていると、柚樹先輩が私の左手を取り、

『あー、ごしごししちゃだめって。ほら、赤くなってる』

そういうと、私の手を握ったまま、水道のところまで連れていくと、丁寧に石鹸で洗ってくれた。



こういうことをさらっと出来るから、学校のプリンスなんて言われるんだろうなぁ。
ほんとに欧米か!!って感じの人だなぁ。

『ほら、落ちたよ』
柚樹先輩に言われて見てみると、私の左手にびっしりと書かれていたメモはきれいになって…



『だ、だめじゃないですか!?消えちゃったじゃないですかぁ…』


柚樹先輩は、くすくすと笑うと、

『そうだね。でも俺、洗いながら、だいたい覚えたから大丈夫だよ』


その言葉に、私はほっと胸をなでおろす。



『篠崎ってさ、』

『なんですか?』

『かわいいよね、パンダみたいで』

『パンダって、あの白黒のですか?』

『まぁ、パンダは白黒だね』


パンダみたいだ、と言われたのは初めてだ。


楽しそうに笑っている柚樹先輩を見ながら、私は柚樹先輩が大好きな里奈ちゃんをふと思い出す。


『柚樹先輩って、彼女いるんですか?』
柚樹先輩は一瞬驚いた顔をして私を見ると、

『いるよ、他の高校に通ってるけど』

爽やかな笑顔で教えてくれた。



あぁぁ、里奈ちゃん…。
残念!