甘いヒミツは恋の罠

 それから一時間後――。


 店内の騒音もBGMとしてなんとか耳が慣れてきた頃だった。


「皆本さん、大丈夫ですか? なんだかお疲れみたいですけど……あ、僕は大野隆史といいます」


 大野は、初めに紅美の斜め前に座っていた“木田宝飾”の販売員だ。サラサラのクセのないストレートの黒髪で、清潔感の漂う正統派タイプの男性だった。


「いえ、疲れてはいないんですけど、どうしてもこういう場所って慣れなくて……」


 大野の首にはシルバーチェーンのネックレス、左の中指にぽってり太めの指輪をしていた。


(う~ん、この人にはあんまり合わないデザインだと思うんだけど……って余計なお世話か……)


「楽しんでますか?」


「え、えぇ、それなりに……こういう飲み会ってあんまり参加したことなくて、すみませんつまんなそうにしてましたか?」


「いいえ、よかったら僕と少しお話しませんか」


(うぅ、“木田宝飾”のイケメンマジックにやられそう……そう、男は顔じゃない、顔じゃ――)


「はい、喜んで」


 結局、“木田宝飾”のマジックにやられた紅美は、にこりと笑ってあっさり大野の申し出を受けた――。