甘いヒミツは恋の罠

(すごい人……)


 呆気にとられながら店内を見渡すと、フロアにはかなりの客が入って踊っていた。熱気がこもっていて、しっとりと独りでに肌が汗ばんだ。


「あ! 紅美ー! こっちこっち!」


 人ごみを掻い潜って、瑞穂が手を振りながら近づいて来るのが見えた。そんな姿に紅美はホッと胸をなでおろすと、この状況に負けじとにこりと笑った。


「もうだいたい人数集まってるよ! 紅美が来るのみんな期待してたんだから」


「え? どうして?」


「だって、アルチェス本店に栄転した優秀なデザイナー! だもんね」


 本店勤務になるにはある程度の実績と各部門に沿った才能がなければ異動は難しい。


 紅美は、自分では実感がなかったが、周りからはそう思われていたのだと思うと照れくさい気持ちになった。