甘いヒミツは恋の罠

 会社のオフィスへ着くなり、仕事を始める前にコーヒーでも買って一服しようかと思っていると、眼鏡を押し上げながら沢田が紅美に近づいてきた。


「おはようございます。皆本さん、店長からお話は聞きましたよ。今夜、指輪の会見に行くそうですね?」


「え? あ、はい」


 相変わらず耳が早いと感心していると、沢田が何か言いたげにしている。


「本当は僕も行きたかったんです。なんせ、僕も店長のルチアシリーズはずっと見守ってきましたから……指輪の発売が決まったって聞いてどんなに嬉しかったことか……」


「沢田さん……」


「だから、今夜の会見、僕の代わりにしっかりと見届けてきてください。言いたかったのはそれだけです」


 沢田は早口にそれだけ言うと、紅美の返事を待たずにデスクに向かって声もかけられないくらいの気迫で仕事をし始めた。


(沢田さん……本当に朝比奈さんのこと応援してくれてたんだ)


 まるで自分を応援してくれているかのように、温かいものがじんわりと紅美の胸に広がった。