甘いヒミツは恋の罠

 性悪な女は今までにいくらでも見てきた。手懐け方も知っているつもりだった。特に葵だけが特別というわけではなかったが、彼女はかなり底意地が悪いため、さすがの朝比奈も辟易していた。


「お前、あいつがどんな気持ちでルビーのネックレスを手放したと思ってる? おそらく……借金の金を出させるために母親に脅されたに決まってる」


 朝比奈には紅美がルビーを手放した本当の理由について、おおかたの予測はついていた。どんな手で脅しをかけたのかはわからないが、平然と実の娘に圧力をかけたみどりに底知れぬ怒りを感じた。


「瑠夏……」


 憤りを顕にし、一点を忌々しそうに凝視する瑠夏に葵は戸惑いを覚えた。


 瑠夏は今までに、感情をあまり表に出さない冷淡な男だった。けれど、紅美と出会ってからというもの、葵には朝比奈が別人のように思えてならなかった。


 その人柄を変えたのが自分ではなく別の女だと思うとなぜか面白くない。まるで子供のようだと葵は自身を自嘲した。


「とにかく、今はまだネックレスを返してやらない。その気になったらまた連絡するわ」


「ちょ……! 待て!」


「じゃあね~」


 スツールをとんっと降りて朝比奈に投げキスをすると、呼び止める声も無視して葵は店を出て行ってしまった。



 交渉決裂――。