甘いヒミツは恋の罠

「聞いてよ~、今日、部長ったらさぁ」


「あんた、結構いいとこの会社の人なんだろ? ハメ外す前にはやく帰んな。それに今夜はひとりで飲みたい気分なんだ」


「なによぉ、ケチぃ~」


 女は不満げに頬を膨らませると、身体をくねらせながら向こうへ行ってしまった。


「なんだ、あんな美人突っ返しておいてもったいない」


 背後から聞こえたその声に朝比奈は重くため息をつく。振り向いて顔を合わせることすら億劫に思えた。


「ここ、いい?」


「勝手にしろ」


 隣のスツールに遠慮なしに腰を下ろしてきたのは、朝比奈と同じく一人できていた大野だった。お互いに気に入っているクラブで、時折姿を見かけることはあったが、いつも連れがいたためにその姿を黙認するだけで特に会話もすることもなかった。


「紅美さん、どう? 元気?」


「お前が言うのかよ……」


「まぁ、振られちゃった身だからね……彼女のことは遠くから見守ってあげたいんだ」


 白々しい大野の言葉に、朝比奈は鼻で嗤った。