甘いヒミツは恋の罠

 言われたことがすぐに理解できずに、紅美は間抜けな声を出してしまう。脳みそがフル回転しても現状がうまく呑み込めない。


 カチャカチャと男の手の中でルービックキューブがものすごい速さで回され、最後のひと回しで色が揃うと、男の鋭い視線が紅美に向けられた。


「俺は、その弟の朝比奈瑠夏だ。今日付で本店の店長にさせられたっていうか、兼デザイナー。兄貴に会いたかったんならすれ違いだったな、残念でした」


(……はぁぁ??)


 鏡を見なくても自分の顔が今、とてつもなく不細工にひん曲がって引きつっているとわかる。


 かろうじて動く目で部屋の周囲を見回してみると、デッサンを描きなぐった紙や道具が机に広がっている。紅美にとっても馴染みのあるものばかりで、男が言っていることに信憑性が増してくる。