甘いヒミツは恋の罠

「じゃあな」


 開いた口がふさがらない紅美の間抜けな顔を、フフンともう一度笑って男はくるりと背を向けて歩き出した。


「もう……!」


 紅美は慌ててレンズを外すと、レンズに書かれた文字を見て顔が引きつった。



 バ・カ



(な、なによこれ!? バカ……って! 小学生じゃあるまいし!)


 紅美はバッグから眼鏡拭きを取り出すと、これでもかというくらいにゴシゴシと拭いた。


(はぁ……無意識だったけど、大口開けてたなんて……やっぱり恥ずかしい)


 そして、気を取り直して眼鏡をかけなおすと、見知らぬ人に支払いをさせてしまった情けなさと入り混じって、紅美はうなだれながら会社に戻ることにした。