******


私たちは今、ものすごく不機嫌そうな人の前に座っている。


その名佐々木義治・・・瞬さんのお父様。


「父さん、俺、アメリカに行くことにした」



その宣言にお父様は、
「俺はそんなことを聞きたいんじゃない。睦美さんはどうするのかを聞きたいんや」
と我が息子を睨みつけるように言い放った。


その言葉の鋭さに、私は飲み込まれてしまい、悔しいが怖気付いてしまった。


「睦美は、日本で待っていてもらう」


「はぁ?それでいいんか?」


お父様はさらに険しい表情になっていた。


「あぁ、彼女もまだやりたいことがあるから」


その言葉にお父様は「本当にいいのか?」と心配そうな顔で聞いてくださった。



「主任という責任のある役職をいただいている身なので、今すぐ辞めることはできません。それに、今は仕事が楽しいので」


そう答える私に、「そうか」と安心したように頷いてくれた。


「睦美さん、今日は夕飯を食べに行きましょう」


「あっ、はい」


お母様に優しく声を掛けてもらい、私は笑顔で返すことができた。


ようやく、この豪華な空間にも慣れてきたようなきがした。


前に来た時は、緊張しすぎてよく見えなかったけど、やっぱりこのリビングにも絵画が飾ってあったり、大きなテレビが存在感を主張している。


私たちが座っているソファも革張りで高価なものに違いない。


やっぱり別世界なんだと思ってしまう。


「睦美、どうした?」


考え込んでいたせいで、瞬さんに心配されてしまった。


「ううん、何でもない」


「睦美さん、疲れたんじゃないの?瞬の部屋で休ませてあげたら?」


私の言葉に続けてお母様は、お父様の隣に座りながら言ってくださった。


「いえ・・・だいじょう・・・」


「そうするか」

と瞬さんは立ち上がり、私の腕を引っ張って立たせた。



「お母さんたち、出かけてくるから、19時にはいつものお店に来なさいね」


「あぁ、わかった」

と背中で返事をすると、私の背中を押して進んでいった。