***
「メーちゃん、実はおれ、超能力者なんだ」
小学校2年生の秋、季節外れの転校生であったサクロは、得意げにそう言う。
周りの皆が苗字で“サクロ”と呼ぶから、私も彼を“サクロ”と呼んだ。
「メーちゃんは、おれと結婚するんだよ」
サクロも同様に、私の周りの女の子が私を“メー”とか、“メーちゃん”と呼ぶのを真似て、自然とそう呼ぶ。
小学生なんてそういうものだ。呼び方にこだわりなどない。
――突然の彼の申し出に、私は思わず眉を顰めた。
「……しないよ?」
それから、至って冷静に切り返し、首を傾げる。
「えーっ! なんで! なんで!?」
「……だって、結婚する人は、ちゅーするんだよ。……ちかいのキスなんだよ。……サクロとはちゅー、したくないもん」
「……」
「でももし、ちゅー、したくなったら、結婚してあげるね」
幼い子どもの、約束だった。
――静ちゃんは、何と答えたんだろう。