大人しく机に座ったまま、手持ち無沙汰な私はおもむろにかばんの中から読んでいる途中だった文庫本を取り出して開いた。
学校でこうして本を読むなんて、久方ぶりすぎる。でもたまには悪くない。特に好きな人を待っている時間だから。
待ち惚けしていると、時計の針のスピードがとてつもなくスローモーションに見えた。
本の世界に入っていて、ふと時計を見てもまだ三分しか経っていない、とか、先程から同じことを繰り返している。
教室からは誰もいなくなった。私ひとりだけだ。いつもあんなに騒がしい教室がこんだけ静かだとなぜだか落ち着かない。
授業中だって私たち生徒は静かにしていても先生がなにかについて説明をしていたり、問題を出題していたりするし、誰かの咳払いや息づかい、外からは体育をする他の生徒たちの声もする。
今も運動部のかけ声や吹奏楽部の練習する音が遠くから聞こえているのだが、それでも奇妙な寂しさがあるのだ。
高橋くん遅いな、なにしているんだろう。
「あれ、日高さんなにしてるの?」
「えっ、あ、田中くん……」
野球のユニフォームを着た田中くんが顔面に汗を滲ませて扉のところに立っていた。
白いユニフォームもところどころ茶色く汚れていて、練習を頑張っていることが伝わってくる。
「私は人を待ってるの。田中くんこそどうしたの?」
「俺?俺は忘れ物とりにきたんだけど……お、あるな」
自分の席に歩いて行って机の上に置いてあった水筒を手に取ると「これ忘れたら脱水で俺死ぬわ」と笑った。
確かに、今も汗すごいもんな。



