「……迷子になんなよ」

「ならないよ」



結城くんと沙月ちゃんの会話に私は静かに笑う。


だけど、こんなに人が多いと迷子になってもおかしくないよなぁ。進むのも一苦労。


一歩一歩ゆっくり進んでいく。



「日高、こっち」



いつの間にか皆が進んでいた方向からずれていたようで、はぐれそうになった私の手を一瞬だけ高橋くんが引く。


進行方向を修正すると離された手に寂しさを感じて、咄嗟に頭を左右に振る。


いやいや、繋いだままの方があり得ないから。



「ちゃんと賽銭持ってる?」


「はい!」



気を使ってくれた高橋くんのお母さんに返事をする。五円玉、ちゃんとある。


ご縁がありますようにと五円玉をお賽銭箱に投げ入れること、誰が考えついたのだろう。


穴の空いた手の中の小銭を見て不思議な感覚になる。


他の硬貨に比べたら価値は下から二番目なのに、このお金に皆が想いを乗せている。


……まだ順番が来るまで時間がかかりそうだが、私はなにを願おう。


大切な人がたくさんいるから、なにから願おうか迷っている。


いつも私のことを気にかけてくれている両親、沙月ちゃんに結城くんに……それから高橋くん。


縁を末長く結んでいたい人はたくさんいるし、その人たちの幸せを願いたい。
それに受験を控えているし、そのお願いごともしたい。


あまりに欲張りすぎて、神様怒っちゃわないかな?
すこし心配だ。