一向に立ち上がろうとしない結城くんの足を彼女が睨みながら蹴って彼を渋々部屋から連れ出した。
シンと静かになる。
それでも自分の心臓の音だけは、確かにしっかりと聞こえて来る。むしろうるさいぐらいだ。
暖房が効いていて暑くなってきた私はまだコートやマフラーを脱いでいないことに気がついた。
「もう体調は大丈夫なの?」
「え?あ、ああ……だいぶな」
「そっか、メッセージの返信ないから心配してた」
「ええ、うそ、マジ⁉︎……うわぁ、スマホの電源切れてるし。全然気づかなかった、ごめん」
スマホの画面を見て絶望のオーラを纏う彼に「大丈夫だよ⁉︎」とフォローを入れる。
高橋くんが顔を上げて笑ってくれたので私も笑うことができた。
「来てくれてサンキューな」
「ううん、こっちこそ急に押しかけてごめ……」
ふとその時、ベッドの枕元に参考書とノートが置いてあるのが見えて、言葉をやめた。
もしかして体調悪いのに、勉強していたの……?
急に黙った私の視線を追って、高橋くんが勉強道具に触れた。
「休んでる暇、俺にはねぇから」
「でもこんな時ぐらい……」
「これ、見てよ」
参考書の間から取り出した一枚の紙。
受け取ると見覚えのある用紙で、目を見開かせた。
これ、この前の模試の結果?
C判定?
「俺、死ぬ気で頑張らねぇーと、日高たちと同じ学校行けねぇし」
「高橋くん……」
頑張ってる人に、なんと声をかけたら正解なのだろう。
頑張ってる人に「頑張って」は違う気がする。これ以上負担になる言葉は避けた方がいいことぐらい、私にもわかる。
頑張らなくていいよって、無責任なことは、言えない。
高橋くんは頑張ってるのに、その頑張りに背いた言葉をかけるなんてご法度だろう。