いつだってそこには君がいた。



本を読むことが好きだったのだけど、荷物になるからと購入は諦めていた。
学校の図書室や町の図書館で借りて読んでの繰り返し。


同じ家には少しの間しか留まらないから、思い出もない。


友だちもできなかったから、本当に引っ越しは毎回大変で、大嫌いなイベントだった。


今回だけだ。
引っ越して来て良かったと心から思ったのは。


だけどもしかしたら、またいつか、私は引っ越さなくちゃいけなくなる時が来るのかもしれない。


そう思うと最近は怖い。
大好きなみんなと離れなくちゃいけなくなるなんて、考えたくもない。


高校受験に向けて、頑張っているのに。


ーーピーンポーン。


インターホンを押すと、軽快な音が鳴った。
ぐっと緊張感が増してくる。


た、たぶん親御さんとかいらっしゃるよね?


うわぁ、急に喉が渇いて来た。



「はーい、あら、いらっしゃい」



奥の方から足音が近づいて来たかと思うと、玄関の扉が開き、どこか高橋くんに似た女性が顔を出した。
高橋くんのお母さんだろう。笑うと下がる目尻の滲み出る優しさの痕跡がそっくり。



「こんにちは、おばさん」



沙月ちゃんが挨拶すると高橋くんのお母さんが「もしかして愛希のお見舞い?」と笑った。