翠は俺の手にある長ランをじっと見て、
「ツカサ、それ一度戻して」
「は? 今更作り直すとか言わないよな?」
「そんな無謀なことは言わない。でも、アイロンくらいはかけたい」
「あぁ、そんなこと」
「そんなことじゃないものっ。アイロンをかけたら少しくらいは見栄えが良くなるかもしれないでしょうっ!?」
 あまりにも必死な翠がかわいくて、くつくつと漏れる笑いは抑えられなかった。
「わかった」と長ランを返せば、翠は悔しそうな目で俺を睨む。
 そんな翠を見ながら、
「ところで、後夜祭で着るドレスは決まってるの?」
「まだ決まってはいないの。実は、今年の誕生日にも静さんからたくさんドレスをいただいていて、でもなかなか着る機会がないからこの機会に着ようかな、って。明日、園田さんがドレスを数着持ってゲストルームへ来てくれることになっているから、そのときに選ぶ予定なの」
「それ、俺も見たいんだけど」
「え? ツカサも……?」
「……後夜祭のダンス、誰と踊るつもり?」
 翠はきょとんとした顔をしていた。
 俺がにこりと笑ってローテーブルに身を乗り出すと、
「あ……わ、その……」
 翠は身を引いて長ランを抱きしめる。
「俺以外に誰か相手がいるとでも言おうものならどの程度のお仕置きをさせてもらえるのかが楽しみだ」