「一、二、三、二、二、三、三、二、三、四、二、三……御園生さん、ステップはきちんと踏めています。そんなに足元ばかり見なくても大丈夫ですよ」
 指摘されて顔を上げるも、すぐに恥ずかしそうに俯いてしまう。
 その原因はなんとなくわかっていた。父さんの「顔」だろう。
 翠はいったいどれほどこの顔が好きなんだか……。
 いくら似ているとはいえ、父さんにまで赤面しなくてもいいと思う。
 ちょっと面白くないと思いつつ、いつもとは違う気持ちでハート型のハンバーグと対峙する。
 ぱっと見たところは母さんが作ったハンバーグと変わらないし、味だっていつもと変わらないのだろう。
 それでも、翠が形成したもの、と思うだけでどこか気恥ずかしくそわそわしてしまう。
 いつもなら何を思うこともなくナイフを入れるわけだが、今日のハンバーグにそれをするのは憚られ、フォークで端からつつき順に食べていく。
 紫苑祭の準備が始まってからはそんな機会もなくなったが、夏休み中はふたりで昼食を作ることもあった。しかし、昼食という時間のため、パスタや麺類が主。和食やほかの洋食を作ることはほとんどなかった。
 ……いつかは翠が作る和食や洋食を食べられるようになるのか。
 来年の誕生日プレゼントに「夕飯」をオーダーするのもいいかもしれない。
 その前に、デートで遠出することがあればお弁当を作ってきてくれるという話だった。
 翠が作る弁当とはどんなものか――。
 そんなことを考えているうちに夕飯は食べ終わっていた。