長ランの話が落ち着けば、次は後夜祭のドレスについて尋ねられる。
 後夜祭は、紅葉祭だろうが紫苑際だろうが同じ趣旨のもとに催される。つまりはハロウィンに託けたお祭り。
 去年はアリスの格好をさせてもらったけれど、今年はなんの仮装をするかなど決めてはいなかったし、自分で作るなどもってのほか。そんな余裕は私にも生徒会メンバーにもありはしなかった。
 訊けば、紫苑祭の年は手作りの衣装を着る人は少なく、ほとんどの人が既製品のドレスだという。だから、私もそれでいいかな、と思っていた。
「まだ決まってはいないの。実は、今年の誕生日にも静さんからたくさんドレスをいただいていて、でもなかなか着る機会がないからこの機会に着ようかな、って。明日、園田さんがドレスを数着持ってゲストルームへ来てくれることになっているから、そのときに選ぶ予定なの」
「それ、俺も見たいんだけど」
「え? ツカサも……?」
「……後夜祭のダンス、誰と踊るつもり?」
「あ……わ、その……」
 ツカサはにこりと笑ってテーブルに身を乗り出す。
「俺以外に誰か相手がいるとでも言おうものならどの程度のお仕置きをさせてもらえるのかが楽しみだ」
 その言葉に、先日の「ご褒美」を思い出す。さらには夏休みにされた「消毒」までを思い出して頬がカッと熱を持った。
 きれいに微笑むツカサを見ていられなくて視線を逸らすと、
「翠は誰と踊るつもり?」
「……ツカサ以外の人なんていないもの」
「なら、パートナーのドレスくらい把握しておきたいんだけど」
 そんな言い方しなくてもいいのに、と思いつつ、
「明日、六時半に来てもらえることになっているのだけど……練習は大丈夫なの?」
「一日くらい俺がいなくてもなんとでもなる」
「そう?」
「そう」
「……なら、一緒に選んでほしいな」
「そのつもり。はい、休憩終わり。予習に戻って」