人間不信だったのは私も同じだ。それがゆえに友達を得るまでには時間を要したし、この年になるまで初恋すら経験していなかった。
 私と雅さんは育った環境も境遇も年も違うけれど、学校という場所で孤立していたことにおいては似た部分があるのかもしれない。
 その一端を話すと、雅さんと顔を見合わせ、
「私たち、そんなところは少し似ているのね」
 ふたり肩を竦めて笑った。
「翠葉さん、恋って、どんな気持ちになるのかしら……」
 こんなことを人に訊かれるのは初めてのことで、私は改めて考える。
 恋とはどんな気持ちになるだろう……。
 一言で表すのは難しい気がするけれど、あえて一言で伝えるなら――。
「心と心臓が忙しくなります」
「え……?」
 無理やり一言にしたところで理解は得られなかった。
 私はさらに言葉を捻り出す。
「えぇと……好きな人のことを考えるだけでドキドキしたり不安になったり……。好きな人の行動や言動に一挙一動したり……。心は慌しくいろんなことを感じるし、無駄に心臓がドキドキして苦しくなります。でも――知らなかった感情は、心にたくさんの色をもたらしてくれます。人生のキャンバスに新しい色が加わる、そんな感じがします」