マンションに帰宅すると、いつものようにコンシェルジュが迎えに出ていた。その並びに翠の顔があるだけで心が和む。
「うちでいい?」
「うん」
 エレベーターに乗ると無機質な音がしていた。浮遊感を覚える箱の中で、
「……一度しか言わないから」
「え……?」
「秋兄のこと、不安っていうか――焦る。俺と秋兄の性格が違うのなんて端からわかっていることだし、年が違うわけだから、それだけできることの差も出てくる。さらには、俺が敵わないものを秋兄はたくさん持っているから――認めるのは癪だけど、俺が持っていない部分に翠が惹かれたら、と思うと不安にならなくはない。でも、そんなことを言ったって仕方ないだろ? 秋兄が翠の傍からいなくなるわけじゃないし、秋兄が翠を諦めるわけでもない。だから、その部分を翠が気にする必要は微塵もない」
 口にするのが癪なことだらけで、一気に捲くし立てた気がしなくもない。
 いつだって秋兄と自分を比べればコンプレックスを感じる。翠が絡んでも絡まなくても嫉妬する。でも、そんなことはできれば翠には知られたくはない。
 できれば、このまま何も訊かずに納得してくれると嬉しいんだけど……。
「……本当に?」
 翠は目を見開き訊いてくる。