今日の夕方にはツカサが帰ってくる。
 待ち遠しくて我慢しきれなくなった私は、三時を過ぎると一階へ下り、カフェラウンジで楽譜を見ながら過ごしていた。
 一時間ほどそうしていると、ロータリーに白いセダンが滑り込み、緩やかに停車した。
 後部座席からツカサが降りるのを確認してエントランスへ出ると、そこにはすでにコンシェルジュが肩を並べて迎えに出ていた。
 数々の「おかえりなさいませ」に「ただいま」と答えるツカサは私を視界に認めると、
「うちでいい?」
「うん」

 ツカサはエレベーターに乗るなり、
「……一度しか言わないから」
「え……?」
 ツカサを見上げると、ツカサはす、と息を吸い込んだ。
「秋兄のこと、不安っていうか――焦る。俺と秋兄の性格が違うのなんて端からわかっていることだし、年が違うわけだから、それだけできることの差も出てくる。さらには、俺が敵わないものを秋兄はたくさん持っているから――認めるのは癪だけど、俺が持っていない部分に翠が惹かれたら、と思うと不安にならなくはない。でも、そんなことを言ったって仕方ないだろ? 秋兄が翠の傍からいなくなるわけじゃないし、秋兄が翠を諦めるわけでもない。だから、その部分を翠が気にする必要は微塵もない」
 一気に言われすぎてびっくりしたけれど、ずっしりと重みのある内容だった。