インターハイで優勝を果たした俺は、翠と一緒に宿舎であるウィステリアホテルへ戻ってきた。
 通常なら閉会式が終わればその足で帰路につくわけだが、翠が一緒ということもあり、閉会式の夜は泊まり、五日目の午前にチェックアウトすることになっていた。
 一度部屋に戻り、三時間ほどしたら夕飯を食べに行く約束をして別れると、俺は真っ直ぐバスルームへ向かった。
 三時間もあればシャワーを浴びる時間もあるし、翠が休む時間も取れるだろう。
 シャワーを浴びて出てくると、ここ数日の経済の動き、株価チャートなどをチェックする。そうして一時間が過ぎた頃、携帯が鳴りだした。相手はほかの誰でもない翠。
『ツカサ、寝てた……?』
「いや、起きてたけど……?」
『……あの、とくに何があるわけじゃないの。まだ時間はあるのだけど、どうしても眠れそうになくて……。だから、ツカサの部屋に行ってもいい?』
 翠の声は弾んでおり、今にも「優勝おめでとう」の言葉が飛び出しそうだ。会場からホテルへ帰ってくる間中、ずっと口にしていたにも関わらず。
「かまわない。来れば?」
『じゃ、今から行くね』
 携帯を切ると、頭を抱えたい衝動に駆られる。
 翠がこういうことをするのは自分だけだと思いたい。ほかの男の前でこんな無防備なことを言わないでほしいし、仮にもベッドがある部屋へのこのこと出向くなんてことはしてもらいたくない。
 唯さんが途中で帰らなければこんな事態にはならなかっただろう。けれども、訪れるチャンスを逃すまいと思う自分もいて――コンコンコン。