金木犀の先に待っていたのは柊の木。
 刺々しい葉っぱに寄り添うのは、まだ半分ほどが硬い蕾の白い小さな小花。
 金木犀とは違い、清楚なコサージュのような様がかわいらしい。
 その先の開けた場所には小菊が一面に咲いており、一輪一輪の可憐な佇まいにため息が漏れる。
 さらには、それらの上に見事に色づいた紅葉広がっていて、まるで絵画のような光景に息を呑んだ。
 ここを作るとき、間違いなくこの光景を完成図として設計したのだろう。
 すごい――。
「きれいっ! きれいきれいきれいっっっ!」
 まるでバカの一つ覚えのように「きれい」を連呼していると、ツカサに「喜びすぎ」と笑われた。
 それでも、私の「きれい」は留まるところを知らない。
 何度となく「きれい」を口にして落ち着いたころ、ツカサが近くのベンチに腰を下ろした。
「翠」と注意を引くように名前を呼ばれたとき、声音の変化に今までとは違う話をされる予感がした。その予感は当たり、
「翠、昨日みたいなことがないように――」
「ツカサ、あのね、私、人と行動しようと思うの」
 話の腰を折ったにも関わらず、ツカサは私の言葉を待ってくれていた。
「本当はね、昨日も佐野くんがウォーミングアップに付き合ってくれるって言ってくれたの。私はそれを断わってひとりで行動していたのだけど、もし佐野くんと一緒だったらこんなことにはならなかったよね。だから、これからは校内で人と行動するように心がけようと思うの」
 今まで、「常に人といる」という状況は避けてきた。
 どうしてかと言うなら、人と一緒にいる状況からひとりになることに耐え難いほどの恐怖を感じるから。
 今の友達が離れていってしまうとか信用していないとかそういうことではない。
 ただ、「ひとり」――「孤独」に対する言いようのない恐怖や心細さがあって、その恐怖に立ち向かうための唯一の手段が「ひとりに慣れる」ことだった。
 幸い、藤宮においては単独行動する人が多いこともあり、一年のときから今まで常に人が一緒、ということはなかった。
 でも、これから先、人と行動することに利点があるなら考えを改めなくてはいけない。
 意を決して話したわけだけど、ツカサの反応は微妙なものだった。
 じっと私を見て、口を噤んだまま。
「ツカサ……?」
「……いいと思う」
「……本当に? なんか、複雑そうな顔をしているけれど……」
「……俺は警備員や警護班の人間を動かそうと思ってたから」
 そんな気はしていた。でも、
「それは嫌」
「言うと思った」
「なら回避して」
 ツカサはものすごく困ったような表情で、
「俺には友人を頼るって考えが思い浮かばなかった。そのことに問題があるようなないような、ちょっと複雑な気になっただけ」
「納得……」
 思わず笑ってしまったけれど、会話の流れに「あれ?」と思う。