「あんなに腫れてんのに普通に歩けんの?」
「えぇと、ごめん……もう少しゆっくり歩いてもらってもいい? あ、っていうか、先に行って? 河野くんも着替えなくちゃでしょう?」
「いや、いいって。桜林館に戻れば着替えられるし、俺たちの打ち上げ場って桜林館だし」
「あ、そうだっけ……?」
 そういえば、電光掲示板に表示されるという放送は聞いた覚えがあるものの、階段を上ることに必死で掲示板まで見ることはすっかり忘れていた。
 最後の最後まで抜けている自分にため息をつきたくなる。
「しかも、上位三組が合同で桜林館だから、藤宮先輩たちも一緒だよ」
「そうなのね」
「その怪我じゃ、藤宮先輩かなり心配してるんじゃない?」
「えぇと……実はまだ足を見せていないの」
「……それはそれはまあまあまあ……。早いとこカミングアウトしといたほうがいいと思うけど」
「うーん……わかってはいるのだけどなかなかね」
 今回のことはツカサがまったく絡まないわけではないから、この足を見たら必要以上に謝られてしまいそうで……。
「でも、制服に着替えちゃったらもう隠せないんだよね」
「ま、そらそうだな。ドレスのように足元全部隠してくれるわけじゃないからね。逆に見せるきっかけになってちょうどいいんじゃん?」
「うーん……なんていうか、今回のことをまったく知らなかった人にまで見えてしまうでしょう? そしたら、邪推する人が出てくるのかな、とか考えちゃって、打ち上げに出ずに帰れるものなら、帰ってしまいたい心境だったり……」
「相変わらず人がいいな。そんなんだといつか損するかもよ?」
「そのときはそのときで……」
「その足じゃ三階まで上がるのきつい?」
「でも、上がれないわけじゃないから」
「よかったら運ぶけど?」
 そんな会話をしていると、前方に立つツカサに河野くんが気づいた。
「あぁ、俺必要なさげだね。先輩がいるなら先輩が運んでくれるでしょ」
 そう言って、「先に打ち上げ行ってる」と走り去っていった。
 制服に着替えたツカサが近くまで来ると、有無を言わさず抱っこされた。
「ゆっくりだったら歩けるのに……」
「まだ怪我の程度も見せてもらってない。それに、さっきよりは痛そうな顔をしてる」
 これはどこかのタイミングで間違いなく足を見せることになるだろう。
 私は諦めの気持ちでツカサの首に腕を回した。