銀座に着いて、車を降りた私は、皇に手を引かれて街を歩く。
夕方とはいえ華やかなショーウィンドウと、人の多さに戸惑いながら皇を見上げるけれど、彼は黙ったまま。
なんだろう?なにかあるのかな。

やがてあるビルの前で、皇が手を上げた。
その先に居たのは。


「冴木先生……?」


私が散々お世話になっている、美形医師。

もちろん、今は白衣ではなくて、黒いロングコートに深い赤のマフラーをしている、私服姿。
相変わらず、誰もが振り返るほどのイケメンだ。
けれど私服以上にいつもと違うのは、その隣に長い髪の女性を連れていることで。

「悪いな、デート中に」

皇が言って、二人に近づいた。

「まったくですよ」

にこやかにサラリと毒を吐く美形医師を、彼女らしき女性が軽く睨む。

「玲一、失礼よ」

柔らかで透き通るようなその声に、思わずまじまじと彼女を見てしまって。

「わ、凄い、綺麗!可愛い!」

近くで良く見た彼女はとても綺麗で。
冴木先生と並ぶと、お似合いの美人さん。

これは、是非BNPに欲しいかも!

「芸能事務所とか入ってます?興味ある?」

思わず詰め寄ったなら、彼女ははにかんだように笑う。

「ごめんなさい、私は」

言いかけた彼女を遮って、冴木先生が私に言った。

「梶原さん、うちの奥さんは駄目。俺はこれでもヤキモチ焼きなので」


……お、


「奥さん!?」

冴木先生、結婚してたんだ!

そういえば結婚指輪をしてた、と思い出す。


「妻の遥です」

頬を染めて挨拶する彼女は、とても幸せそうで。
ふわりと微笑む姿が印象的だった。

にしても遥さん、凄く若い。
私より歳下じゃないのかな。

「教師やってた時の教え子なんだと。犯罪だよなあ」

私の疑問に答えた皇が、ニヤニヤ笑う。

ああ、そうか。確か冴木先生は一時期、高校の養護教諭をしてたんだっけ。