「やっぱりだめだ~~~~!」
僕は思わず頭を抱えながら、その場に屈みこんだ。
「え!? どうしたの?」
彼女もまたトランクを道の端に寄せ、僕と同じ目線になってくれた。
「トシミの前では何かこうね、高ぶっちゃうね。やばい、泣きそう」
と顔を伏せながら伝えると、
「出た! エモーショナルせーちゃん!」
と彼女は言って、キャッキャと笑った。
あ~、仕事行きなよと何度も言ったはずなのに、本当は帰したくない。
「トシミ、今日、仕事戻んなきゃダメ?」
「うん、実は2日間、無断欠勤してて」
「ばか! ちゃんと連絡してって言ったじゃん。もうそういうことするの禁止ね」
「実は、いつか今の仕事辞めて、あの町を出ようかなぁ、なんて」
夜が明け、平日の朝が始まる。
通勤ラッシュに向けて再び踏切はかんかんと音を鳴らす。
その合間に次々と車やトラックが過ぎ去っていく。
その音に消されかけたけど、今、彼女の本音が聞こえた気がした。
「何でもない。じゃそろそろ行くね」
そう言って、彼女はスーツケースを引いて、降りてくる遮断かんの中を走り抜けていった。
渡り終えた後、私鉄の車両が次々と右から左へ流れ、その後、別の車両が左から右へと流れていく。
無事に電車に乗れたかな、と思いながら、
まわれ右をして帰ろうとしたが――。
レールが軋む音が遠ざかるとともに、再び遮断かんが上がる。
「せーちゃん、戻ったら連絡する! 電話とかラインとかいっぱいするから覚悟しててね!」
踏切の奥に、まだ彼女はいた。
ぶんぶんと僕に手を振り、車や人が行き交う中、そう叫んでいた。
もう。今通った電車に乗らなきゃだめでしょ。
でも、嬉しくてまた涙が出そうになった。
「あの時みたいに既読無視しないでね。結構傷つくから!」
と僕が冗談っぽく言うと、
トシミちゃんは少し気まずそうな顔をした後、
「もちろん! せーちゃん大好きだよ! じゃーねー!」
と再び叫び、僕が大好きなその笑顔を見せてくれた。
あの町へ帰っていく彼女の後姿を見届けてから、
僕は大学に行く準備をするために家に帰った。

