「わたし、実は高崎駅でその先生と少し話したよ。落とした切符、拾ってくれたの」
「え、そうなの?」
「先生、改札前で阿部くんのことに気がついてた。でも阿部くんがそれに気づかないようにわたし、邪魔したの」
「…………」
「だって阿部くんの心が先生に戻っちゃうのが怖くて……。でもそんな自分が嫌になって。
それからあの手紙見つけて、2人が両想いだったことに気がついて。それで……」
「何で? 何で言ってくれなかったの?」
「だってわたしがしたこと最低じゃん。言ったら全部終わっちゃうと思ったから」
「何それ。人の手紙勝手に見たあげく、勝手に1人で色々考えて、勝手にいなくなっちゃったんだ」
「あ、その……本当にごめんなさい」
僕は少しきつい言い方をしてしまったようで、トシミちゃんは慌てて下を向いて謝った。
違う、こんなことが言いたいんじゃなくて。
彼女が書いたメモを小さく折りたたみながら、心を落ち着かせる。
「そういうことはちゃんと言って。他にもおれに言ってないことある?」
少し左右に揺れている彼女の瞳に向かって、やわらかい口調で訴えた。
すると、トシミちゃんは下を向き、マフラーに顔をうずめながら話し始めた。
「実は昨日ね、阿部くんにぎゅっとしてもらいたかった。その思い出だけでもう十分かなって思って」
「は?」
「でも阿部く……せーちゃん、全然手出してくれる雰囲気なかったし。もう二度とそういう対象に見てくれることはないんだなぁって」
「あの、かなり我慢しましたけど。ってか……本当にトシミはそれでよかったの?」
「いいわけないじゃん! でもどうしたらいいか分かんないんだもん。わたしに早く帰って欲しいんでしょ? いたら迷惑なんでしょ?」
「え。そんなこと言ってないじゃん」
あれ? 何でこんな言い合いをしているんだ?
僕とトシミちゃんが言葉を交わすごとに、空の藍色は次第に色を薄くしていく。
彼女が履いているワンスターは、
あの頃と同じで、星の色は赤色であることが分かった。
そういえば、付き合っている時はこんなにお互いの意見をぶつけたこと無かった気がする。
何で彼女には上手く伝えられないのだろう。
そして彼女は僕に何を言いたいのだろう。

