仕方がないので落とされた道具を拾うと、
チラッと平木はわたしを見た。
「お前と違って私は才能ねーんだよ。どうせあざ笑いに来たんだべ?」
もちろん視線は合わせてくれない。
でも、その背中は悲しさで震えているように見えた。
「違うよ、わたし平木のこと目標にしてた。小学生の頃からずっと練習頑張ってて、すごいなあって尊敬してた」
わたしは落ちたストップウォッチを拾い、壊れていないか確認してから、カゴの中に入れた。
「うるせーよ、結局おめーの方が記録いいべや。本当目障り。消えて」
「平木変わらないね。負けず嫌いで、努力家で」
「は? また足つぶすよ?」
そう言って、平木は鋭いナイフのような視線をわたしに向けた。
わたしは表情を作らないまま、その目を見つめた。
平木を見つめることだけに集中した。
「中学の頃のケガがきっかけで失ったものいっぱいあるけど、その分手に入れたこともあったから。もうあんな痛い思いするのは嫌だけど」
「…………」
「もういいじゃん。平木は平木のままで頑張りなよ」
ばらまかれた物はだいたいカゴの中に戻せたはず。
拾い忘れた物はないか、わたしが左右を見回している間に、
平木は荷物を両手に持ち、すたすたとその場から去ってしまった。
「わたし、平木のこと応援してるよ!」
その後姿に向かって、わたしは叫んだ。
すると、彼女はちらっと私を振り返った後、ぷいっと元の方向に顔を戻した。
届いただろうか。
何かを変えることができただろうか。
あんなに辛そうな顔して、でも陸上続けてて。
『トシミちゃん、まじかっけー! 何でそったに飛べるの?』
初めて大会で入賞した時、
彼女が驚いた顔で、そう声をかけてくれたことが忘れられない。
いつか彼女が笑顔でトラックに戻る日が来てほしい。
幸せな気持ちで、大好きな陸上に臨んで欲しい。
そう願いながら、わたしは自転車置場へ戻った。
そしてわたしはもう1人でも大丈夫なんだと思った。
わたしはわたしのままで、しっかりと飛んでいけるのだ。

