「お疲れ様でしたー!」
ずっとジャージのポケットでスマホが振動している。
構わずわたしは練習後のミーティングを終え、みんなと別れた。
あ、飲み物無くなっちゃったな。
帰路につく前、わたしは競技場の入り口近くにある自動販売機ゾーンに向かった。
競技場まわりを歩いていたら、道の奥に平木の姿を見つけた。
「平木! これとこれ。学校まで持って帰って」
「はい。わかりました」
ちょうど中央高の陸上部も練習終わりのようで、先輩らしき人に次々と荷物を手渡しされている。
そういえば、中央高はマネージャーがいないって噂だ。
1年生が雑用係をやっているらしい。
もちろん選手に漏れた人が。
「あ、手ぇすべった。ごめーん!」
突然、その先輩らしき人が、平木の前で荷物のカゴをひっくり返した。
あずき色のアスファルトの上にミニハードルやバトン、ストップウォッチなどがぶちまけられる。
それは平木の足元でバウンドし、散り散りになって転がった。
そのまま「んじゃ、よろしく~」と言って、先輩はゆっくりとその場を去った。
――ひどい!
わたしはダッシュで平木とその先輩の間へ向かった。
やわらかいアスファルトの上は、普通の道路よりも弾力があり、走りやすかった。
「何してるんですか!? 大切な道具……ふがっ」
その先輩の後姿に向かってわたしは叫ぼうとしたが、平木の両手に顔を押さえ込まれてしまい、できなかった。
「バーカ! 余計なことすんでねーよ!」
平木に小声で怒られているうちに、その先輩の姿は見えなくなってしまった。

