先輩の腕に包まれつつ、左右に視線を動かしテンパっていると。
「ごめんトシミちゃん。あたしみんなに事情バラしちゃってて」
と、ナナミちゃんが舌を出しながら、わたしに謝った。
そっか。
クニオがクラスでわたしが陸上を辞めた理由をバラしたから、ナナミちゃんは知ってたんだ。
雪がとけ、市営の陸上競技場も再び練習場として開放された。
冬場のトレーニング期間を経て、1年半ぶりに競技場で挑んだ走り幅跳び。
中学の頃のベストにはもちろん及ばないけど、それなりの記録を出すことができた。
もうすぐ春がやってくる。
空には、雲ひとつない水色が広がっている。
長い曇り空の期間を経て、ようやく光が見えた。
「ありがとうございます。もっと頑張って記録どんどん伸ばします! これからも指導よろしくお願いします!」
わたしは大好きな陸上部のメンバーに向かって、頭を下げた。
昔はそこまで実感はしたことなかったけど、
やっぱりわたしは走り幅跳びが大好きなのかもしれない。
そう気づくことができたのは、阿部くんのおかげ。
雪の中、彼に向かって、思いっきり飛ぶことができたから。
スピードに乗って、もっともっと、遠くまで飛びたい。
これが今の、そして、これからのわたし自身なのだ。
じわりと涙がにじんだ。

