「あのさ、もしみんなが乗った豪華客船が、氷山にぶつかったとするじゃん」
「ん?」
「せーちゃんはさ、わたしと先生が海でおぼれてたらどっちを助ける? 救助する船にはあと1人しか乗れないって時」
「は? 何それ……」
「例えばの話だよ」
「……そんなの選べるわけないじゃん」
そう言って、阿部くんは左下に視線を寄せた後、
風に消えそうなか細い声で、ごめんね、とつぶやいた。
――うん。そうだよね。
自分がものすごく酷なことを聞いているのは分かっている。
阿部くんのことだし、何となく答えられないことは予想できていたけど、
やっぱりショックだった。
嘘でもいいから、一番にわたしを助けるって言って欲しかった。
でももし彼がすぐそう言える人だったら、
わたしは好きになっていなかったかもしれない。
「わたしはたぶんせーちゃんに助けられなくても、自分で何とかできる気がするんだよね」
「…………」
「せーちゃんのおかげで強くなった。せーちゃんもそうじゃない?」
わたしは阿部くんのそばにいたい。
でも、先生も阿部くんが好きで、阿部くんはわたしと付き合っていて。
「先生はそんな強くない人なんでしょ? せーちゃんが手を伸ばしてあげないと助からないよ、きっと」
わたしを一番に助けて欲しい。
でも、そのためには先生を切り捨ててもらわなきゃならない。
……本当に、それで良いの?

