飲み物を取りに行く途中。
「トシミ!」と、廊下で声をかけられた。
聞きなれたその声には、珍しく焦りの感情がまざっていた。
振り返ると、阿部くんがいた。
「何か、久しぶりだね」
「そだね。いろいろ準備、終わった?」
「終わったよ。あとは荷物出すだけ」
「そっか」
2人きりになるのは久しぶり。
少しだけぎこちない雰囲気を感じた。
阿部くんはあまり表情を変えない。
わたしも上手く笑うことができず、彼の顔も直視できなかった。
ヒット曲やアニソンなど、各部屋の音楽と微妙な歌声が混ざってかすかに聞こえてくる。
やっぱり好きな音楽はCDやライブなどで聴くのが一番だ。
わたしが無言になると、
「ちょっと外でない? おれカラオケ苦手だし疲れちゃった」
と彼は言って、わたしの手を引き、店を出た。
久しぶりにつないだ手は、何も変わっていなかった。

