はぁ――。
家に帰り、自分の部屋のベッドに腰をかける。
わたしは大きなため息とともに、ポケットの中から1つの封筒を取り出した。
結局持って帰ってきてしまった。
また近いうちに阿部くんの部屋に行く機会もあるだろうから、その時にこっそり返しておこう。
カチッ、カチッ、と目覚まし時計の秒針音が部屋の中に響いている。
その針が刻まれる度に、阿部くんがこの町からいなくなる時間が刻一刻と迫っていることと、
自分の心の中の罪悪感のようなものが膨れ上がっていくことを感じた。
わたしは何気なく、ポケットから封筒を出し、もう一度手紙を読んだ。
女の子っぽい可愛い文字だな。
全体的に文字の左側が少し上がっている。
『(実は私、彼氏がいるんだ・・・。
だましてるつもりはなかったんだけど、ごめんなさい。)』
彼氏がいても他の男の子にときめく瞬間ってあるのだろうか。
わたしは阿部くんしか見えないから、その気持ちが分からなかった。
そのままベッドに寝っ転がる。
天井を背景に再びさっきの手紙をぼんやりと眺めた。
――あ。
ずん、ずん、と喉の奥から心臓音が聞こえてくる。
――これって。
じわりと瞳の奥が熱くなる。
――何で、何で!?
わたしは気がついた。
手が震え、くしゃ、とその便箋はしわを刻む。
はっ、と我にかえり、わたしはそれを静かにたたみ、封筒の中に入れた。
まさか……。

