しかし、1つ疑問が湧きあがった。
何でここにあるんだろう。
中学の頃の物は、実家に置いたままって言っていたのに。
そっか、実家の阿部くんの部屋はお母さんが掃除しているっぽい。
こういう先生関連の物が見つかったら、そりゃまずいか。
さっきの曲や詩のメモも見られたくないものっぽいので、
きっとこの缶カンの中に一緒に入れて、この町まで持ってきたのだろう。
『阿部くん!』
先月、動き出した新幹線に向かって必死に叫んでいた、
その先生の姿がフラッシュバックする。
どんな思いで、先生は彼の名を呼んだのだろうか。
そして、彼はどんな思いでその姿を見つめ続けたのだろうか。
わたしは、どうしてもこの中を見たくなっていた。
やっぱりわたしは最低だ。
昔の恋は、女の子は『上書き保存』できるけど、男の子は『別ファイルに保存』――。
阿部くんの過去を自分のもののように受け入れている、と思っていたはずなのに。
先生と過ごした時間を本当は捨てていて欲しかったんだろうか。
この手紙も、思い出も、全部。
もう、自分で自分がよく分かんないや……。
「…………」
わたしは、めぐるめく考えや思いに蓋をして、墓場までもっていく覚悟で封を開いた。

