「いつかせーちゃんと2人で暮らしたい」
「うん。高校卒業したらそうしようね」
布団は2組敷かれていたのに、結局1つの布団の中で一緒に寝た。
暗い中、背中合わせで眠っているのに、
まだわたしの中に阿部くんの温もりがとどまっていて、
それは鼓動とともに甘い熱となって体中にどんどん広がっていく。
嬉しすぎて、涙が出た。
「……トシミ、泣いてる?」
「う、そんなこと……」
浴衣の袖でこっそり涙をぬぐってから、寝がえりを打ち、阿部くんの方を向いた。
すると、彼もわたしの方を向き、温かい手で頬を撫でてくれた。
「泣いてるじゃん」
「んー。たぶん、嬉しすぎて気持ちがついていってないのかな」
「それはいいこと?」
「うん。だってこんなに泣いちゃうくらい幸せな気持ちになったの、生まれて初めてだから」
「そっか、良かった。トシミが幸せで本当に良かった」
「せーちゃん……?」
「トシミ、ぎゅってしていい?」
「うん」
布団の中で、彼は優しくわたしを全身で抱きしめた。
わたしもこれ以上近づけないのがもどかしいくらいに、きつく彼を腕で包み込んだ。
「おれもね、なんかすごく嬉しくて」
「ん?」
「嬉しすぎて、ふと怖くなっちゃう」
「え……?」
彼はまだ自分の幸せを素直に受け入れることができないのだろうか。
「おれ、こんなに幸せでいいのかなぁ」
耳元に、彼のかすれた囁き声が降ってくる。
わたしは文化祭の後、そう言って彼が涙を流したことを思い出した。
今なら自信を持って言える。
「いいんだよ。わたしが全力で許可するから!」
すると、ふふっと軽く笑う声と、ありがとう、という言葉が聞こえた。

