どんどん早くなる鼓動にドギマギしていると、
「そういうことでよろしくー。あ、トシミちゃん、夜はすき焼きで大丈夫?」
とカヨコさんは首をかしげ、わたしに顔を近づけた。
「は、はいっ! いろいろとありがとうございます!」
そう伝えると、目の前でカヨコさんはニッコリと笑い、「わー可愛いー!」と言いながらわたしを抱きしめた。
カヨコさん、やっぱり阿部くんとノリや系統が全く異なるけど、
目を細め、えくぼを見せながら笑う顔は彼と少し似ていた。
「あ、せーいちちゃんとゴム持ってきた?」
「あるよ。よけーなお世話だって」
「さっすがー! じゃ、ご飯できたら呼ぶねー」
そう言って、カヨコさんはローズの香りを残し、部屋から出ていった。
「…………」
正座をしたまま、ちらちらと横目で阿部くんを盗み見るわたし。
「なーに?」
「あるよ、って……。それ、その時に使うやつのことだよね?」
「うん。そりゃーね」
聞くと、年末にユカチン家に集まる直前。
クニオがそれを近くの店で買うのが恥ずかしいと言ったため、遠くのコンビニまで付き合うはめになったらしい。
その時にお礼に一箱買ってくれたとのこと。
だからあの時、ちょっと遅れて来たんだ。
しかもやたら雪まみれだったし。
「別にやらしーこと考えてるわけじゃなくて、そういうのはちゃんとしないとねってこと」
阿部くんは恥ずかしそうに視線を右にそらしながら、わたしの頭にぽんと手を乗せてくれた。
うん、分かる。
頭では分かるんだけど、気持ちが上手くついていっていない。
そんなわたしに、彼は軽く触れるだけのキスをしてくれた。
「う、うん……」
もう……ずるいよ。
全部同意するしかないじゃん。
わたしはもう温泉なんか行かなくてもいいほどに、
全身から湯気をだしそうなほど体を熱くさせていた。
しかし、
「や、割と考えてるかもしんないけど……」
と彼がこそっとつぶやいたため、
わたしは肩のあたりにヘボパンチ攻撃をしておいた。

