聞くと、あの後すぐユカチンのお兄さんが帰省してきてしまい、なぜか3人でラーメンを食べにいくはめになったらしい。
しかも、ユカチン兄は大学4年生で単位もほぼ取りきっているため、今もなお実家に居座っているとのこと。
「おらぁ、見事におあずけくらっただぁ」
クニオがため息を吐き、肩を落とす。
「あ、でもおめぇ、やったとしても絶対みんなには言わないでよ!
絶対、あの男子軍団に『とうとうご開通ですね!』とか、からかわれるに決まってるし!」
ユカチンもそう言い捨て、ああ~とうなだれながら両手で顔を隠した。
さすがのユカチン先生も、クニオとの進捗状況が露わになってしまい恥ずかしいようだ。
ユカチン、お兄さんが戻るまで部屋綺麗に保てるかなぁ、とわたしが余計な心配をしていると。
「おれも恥ずかしいってー。もう教室戻りたくないー」
と言って、阿部くんも机に顔を伏せてしまっていた。
そうか、わたし、阿部くんは童貞って宣言しちゃったんだった……。
「ご、ごめん! わたし必死で、つい……!」
先にユカチンとクニオが廊下に出たため、
わたしはこっそり後ろから阿部くんにそう伝えた。
「別にいいよ。むしろまたトシミに無茶させちゃったね。ごめんね」
と彼は振り向きながら、優しい口調で言った。
わたしはほっと胸をなでおろしながら、この『ごめんね』は本来の意味のままかなぁと考えていたけど。
「その代わり、おれの初めてはよろしくね」
阿部くんはふわりと笑って、わたしの頭にぽんと手を乗せてから、教室に戻っていった。
「え? あ、わっ、はいっ!」
テンパってその場で固まるわたし。
そうだよね。そういうことだよね。
わたしたち付き合ってるんだしね。
てかわたしも初めてだし! うあああ!
先生に「1時間目始まるぞー」と声をかけられるまで、わたしはその場で1人視線を泳がせていた。
ちなみに、阿部くんの中学の頃の噂は、阿部くんは童貞という噂に上書きされ、先輩方にも回ることになった。
おかげで、うちが阿部くんの筆お○しするだー! と息巻いている阿部くんファンも出現しているらしい。
なんじゃそりゃ。
いやいや、絶対譲りませんからー!

