ちょうどその時、


「あれぇ? トシミどーした?」


と教室前方の扉から声がした。


ユカチンとクニオが2人で登校してきたらしい。


「お願い! 阿部くん来たら、教室入れさせないで!」とわたしが叫ぶと、

「えぇえ!?」「何だぁ?」と2人はうろたえながらも扉の外に出てくれた。


わたしの行動に対して、その他のクラスメイトたちが口を閉じた。


「まさか阿部ちゃんがね、びっくりだよね。んだけどその先生もやばくね? 中学生の男の子とさ……」


「別にそれでどーのこーの言うつもりはねーから。俺らで噂止めとくし!」


目の前の男女グループも、そう言って、気の毒そうな顔でわたしを見ている。


その時、教室前方が騒がしくなったことに気がついた。


「クニオ入れてけれ~」

「よんぐ分かんねーけど、今はだめだぁ!」


クニオや阿部くんと仲の良い男子軍団が登校してきてしまった。

騒がしい男子がぴょんぴょんと飛び跳ねながら、クニオの両手によるバリケードを越えようとしている。

その男子たちの後ろに、阿部くんの姿がちらりと見えた。


やばい、阿部くんが来てしまった。


ユカチンは教室内で、他のクラスメイトから事情を聞いているようだ。


こんな事実と違うしょうもない話に、阿部くんを晒したくはない。


そして、クラスメイトたちには、こんなどうでも良い連鎖の中から早く脱出してもらいたい。


ごくりと唾を飲み、拳を固くする。


わたしは、教室に流れる異様な空気を胸一杯に吸い込み、こう言い放った。



「それ嘘だよ。だって阿部くん童貞だもん!」



その瞬間、扉の先から「ちょっ!」と阿部くんの慌てた声が聞こえた。