「暴力はんたーい!」


そう言って、わたしが頬を膨らますと、

阿部くんはわたしから逃げるように近くの公園の中に入っていった。


人が入った形跡はほとんどなく、こんもりと積もった雪に深い足跡が刻まれていく。


「阿部くーん、待って待って~雪が~!」


60、70cmはゆうに積もっているため、一歩一歩、片足を太ももの位置まで上げながら、ゆっくりとその姿を追いかけた。


風が吹くと、表面に白い粒が舞うほどの粉雪。

足を踏み入れるとやわらかさをまといながら、その白はゆるく圧縮された。


気がつくと阿部くんに10メートル以上離されていた。


遠くの街灯が白い雪の上にわたしたちの影を映し出している。


――ガタン、ゴトン。


しーんとした空間に電車の音が鳴り響く。

ちょうど奥の白い山と木々の中、釜石線の電車が光を発しながら通り過ぎていった。


その音が遠ざかった頃。


「おいで」


そう言って、雪の中で彼は優しく笑って、手袋を脱ぎ、右腕をわたしに伸ばした。


「…………」


「思いっきり飛んでみなよ」


「え?」


「おれが絶対受け止めるから」



『飛んでみたいんだけどねー』

さっきミスドで自分でつぶやいた言葉を思い出す。


ずるいよ。

ちゃんと聞いてくれてたんだ。


なんでこんなにわたしのことを思ってくれてるんだろう。