わたしはつつーっと白い轍の上を滑り、阿部くんの後ろに回った。
彼は、不思議そうな顔をして、わたしの動きを目で追っていた。
わたしは「てい!」と勢いよくその背中を押してみた。
すると、
「え? ちょっ、やばっ!」
と慌て声を出しつつも、阿部くんは雪に滑ることなく、小走りになって上手くバランスを取っていた。
彼の履いているスニーカーと足元の雪が擦れ、白い飛沫が上がる。
関東出身のため、雪には慣れていないかと思ったけど、意外と大丈夫そうだ。
なーんだ、と思っていたのも束の間。
「へ~。そういうことすんだー」
阿部くんは、わたしの方を振り返り、半目のままうっすらと微笑んでいた。
ぎく!
「わー! ちょっとちょっと」
わたしの腕は、阿部くんに勢いよく引っ張られ、そのまま放られた。
スピードにのって彼を追い越し、わたしは体勢を中腰にして、雪に両足を滑らせてからゆっくりと止まった。
今日はムートンブーツを履いているため、スニーカーよりも滑りやすい。
でもこんなんじゃ転びはしないかな。
「雪国の人なめないでくださーい」
わたしはそう言って、スケートの要領で片足で雪の上を滑りながら、阿部くんのもとへ戻った。
「そういえば、なんで阿部くん雪に慣れてんの? むこうはそんな降らないでしょ」
「だって正月とか家族でばーちゃん家来たことあるし」
「あ、そっか! じゃ寒いのも大丈夫?」
「それは厳しいかも……。向こうの冬も十分寒いけど、こっちは体が凍っていく感じする」
今日の阿部くんは、腰くらいまでの丈の黒いダッフルコート。
この前着ていたモッズコートだと寒いため、隣に住んでいるいとこからもらったって言っていた。
珍しく少し太めのチノパンに、足元はハイカットのスニーカーを合わせている。
「ひゃっ!」
突然、雪の塊がわたしの肩ではじけ飛ぶ。
わたしは防水のマウンテンパーカーを羽織っているため、それはぱらりぱらりと細かい白い粒になって風に舞った。

