「面白かったね、クニオめちゃくちゃテンパってたし」
「ま、ユカチン先生がなんとかしてくれるはず」
「いや~でも男の子としては、やっぱり自分からいきたいよね」
「……そ、そうなんだ?」
わたしは何気ない阿部くんの言葉に、少しドキッとしてしまった。
何かあったかいのを飲んでから帰ろうということになり、ヨーカドー前でバスを降りてミスドへ向かった。
わたしはホットのカフェオレを注文した。
阿部くんはブレンド。
既に冬休みシーズンのためか、客層はほぼ私服の中高生たちだった。
店内の側面は壁ではなく、ガラス張りになっている。
その奥にヨーカドーのスペースがあり、買い物客が次々と流れていく様が見える。
わたしたちはガラス際の席に座った。
「そういえば、陸上部はどう?」
「まあまあかな。結局わたしも一緒に走ったりしてる」
「そっか。幅跳びできそう?」
「うーん……」
――3、4、……GO!
この前、陸上競技場で、踏み切り板に足を乗せた感覚を思い出した。
あの陸上部のみんなの中だったら、わたしも大丈夫かもしれない。
しかし、同時に頭の中にもう一つの映像が浮かぶ。
薄暗い空気の中、倒されていく自転車たち。
靴の音をけだるく鳴らしながら、尻もちをついているわたしを見下す声――
『おめぇまだ陸上やってんの』
中学生の頃、わたしが砂場で苦しんだ時に聞こえたものと、同じ声。
あれは中学の頃、同じ部活だった平木だ。
確か、学年が上がるごとにほとんど口をきかなくなった記憶がある。
――あの子もまだ陸上やってたんだ。

