目の前に重なりながら横に倒れている自転車が並ぶ。
ううわ、やっちゃったか~!? と一瞬だけ焦ったけど、
この波の発生源ではわたしではない。
――誰だよ、もう。
少しイラッとしながら、わたしは自転車たちが倒れてきた方向を見上げた。
そこには、わたしと同じくらいの背の女子が一人。
たぶんこの子が倒しちゃったのかな――。
「……っ!?」
手伝いますよ、と言おうとしたけど、
その顔を見た瞬間、わたしは驚きのあまり全く声が出なくなった。
ゆっくりとその子は腰をついたままのわたしに近づいてくる。
市内の別の高校名が刺しゅうされたジャージに、
後ろに一本で結んだ真っ黒い髪の毛。
ちょうど野球場からの光を遮る方向にいるため、細かい表情まではよく見えない。
だけど、わたし、この子、知ってる。
間違えて倒したんじゃない。
絶対に、わざとだ。
――ざっ、ざっ、ざっ。
その子はわたしのすぐ真後ろを、スニーカーの音を大きく鳴らしながら通り過ぎた。
そして、ゆっくりと自転車と人ごみの中へと消えていった。
「おめぇまだ陸上やってんの」
という言葉をわたしに吐き捨ててから。

