「別にマネージャーが一緒に走っちゃだめっていう決まりはねーべ」
ボーっとしているわたしに、コーチがそう声をかけてきた。
「もちろん。あ、今日人数足りないし、ストレッチの相方やってきなよ。一応マネの仕事だし」
と先輩マネも続く。
今日の練習メニューは全て終わり、部員たちはこのジョギングが終わった後にストレッチに入る。
中には2人1組でやるメニューもあった。
「ありがとうございます!」
とわたしは頭を下げて、部員たちのもとへと向かった。
あの輪の中に入れると思うと、わくわくした。
ここは市営の陸上競技場。
地区大会や市の競技大会はだいたいここが会場となるけど、普段は市民向けにリーズナブルに開放されている。
一般の人や、他校の陸上部らしき人たちもいて、
白や黒、赤や青など、様々な色のジャージの人たちが行き交い、
日が落ちかけている時間帯なのにトラックは明るく彩られていた。
帰り際、こっそり1人でその砂場の前に立ってみた。
芝生の上、助走路はタータンになっていて、軽く走るとふわっと体が浮かぶ感覚がした。
そして、白い塗装が少しはげている踏切り板を右足で踏み込んでみた。
――3、4、……GO!
たんっ、と音が鳴る、とともに
どおっと風が吹き、わたしのジャージと髪の毛が揺れる。
喉がごくりと鳴り、少しだけ目の前が霞んだけど、
「トシミちゃーん、行くよー!」
と声をかけられ、わたしは我にかえった。

