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「あはは、ただの河原だよ」
目の前では、広い北上川がごうごうと流れている。
わたしの声の響きは、その流れの音に溶け込んでいった。
ここは、
『イギリス海岸』
というこの田舎町にふさわしくない何ともグローバルな名前の場所。
かつてはイギリスの海岸にありそうな泥岩層が見られたことより、あのお方――賢治さんが名付けたそうだ。
おかげで、幼いころの私は、イギリスとは自転車で15分くらいで行けるところだと勘違いをするはめになっていた。
晴れの日が続いて水位が下がらないと、今ではイギリス風海岸風景は現れないらしい。
「そうなんだー。ま、一回来てみたかったんだよね」
そう言って、阿部くんはポケットに手を突っ込みながら、土手を下り、川の方へ近づいていった。
観光客らしき人がぽつり、ぽつりと川岸を歩いている。
わたしも阿部くんの後ろを追って、草むらになっている土手を下った。
一昨日くらいに雨が降ったため、水かさはそこそこにある。
「あはは、ただの河原だね」
そう言って、彼はわたしの方を振り返って笑った。

