下り坂の勢いで国道を渡ろうと思ったけど、ギリギリのタイミングで信号が赤になってしまった。
キッ、と2台の自転車が止まる音が鳴る。
「そういえば阿部くんベース持ってるけど、文化祭終わってもちゃんと部活やってるんだ」
「そうそう、楽器屋のイベントで今度ライブ出ることになって」
「マジ? わたし絶対行くよ!」
「本当? トシミちゃん来てくれるんだったらまじで頑張るよ」
厚い曇り空の下。
学ランの上に、わたしと同じようにぐるぐるとマフラーを巻いている。
そう言って、わたしを優しく見つめる阿部くんは、眩しかった。
信号が青に変わる。
ゆっくりとペダルを漕ぎ始める。
上手く加速ができなかったわたしは、
ベースを背負って自転車に乗る阿部くんの後姿を追いかけた。
日々右へ左へ行き交う車によって削られた4号線のアスファルト。
広い2車線の道路を横切ると、ボコンボコンと自転車が上下に揺れた。
遅れているわたしに気がついたのか、阿部くんは渡り終えた後、止まってわたしを待ってくれていた。
「……何で阿部くんは消えたくなるの?」
横断歩道を渡り終えたわたしは、ふと聞いてみた。
「え? あ、図書室でのこと? 改めてそう聞かれると恥ずかしいんだけど」
「…………」
はぐらかそうとする阿部くんに対して、わたしは口をとがらせた。
大好きな人の前で、全く可愛らしくない顔をしているんだろうけど、そんなの関係なかった。
信号は再び赤になったようで、わたしたちの後ろではびゅんびゅんと大小様々な車がスピードをあげている。
「……トシミちゃん、ちょっと時間ある?」
ふっと彼から表情が無くなり、視線もわたしと合わなくなった。
ずきんと胸が痛む。
軽く頷いてから、わたしたちは再び自転車を走らせた。

