「どうだったぁ? 練習は真面目にやってるけど、普段はみんなバカで面白いよ~」
「ナナミちゃんもいるし、皆さんいい人そうですね」
「んだべ? 今からでも入部、考えてけれ! うちら助ける意味でもさ」
「……はい」
頭上には、灰色が何重にも重なった雲が一面に広がっていた。
無意識のうちに、わたしの返事は、そんな空に消え入りそうな細さになっていた。
そのまま先輩は校舎入口まで送ってくれて、じゃね~、と手をぶんぶん振りながらグラウンドに戻っていった。
野球場やテニスコートからの声や音が、校舎にぶつかって、2重に聞こえる。
わたしは、軽く会釈をしてから、その先輩の後姿が遠ざかる様子をボーっと眺めていた。
すると――
「トシミちゃん?」
と、良く知っている声に後ろから呼ばれた。
急いで振り返ると、
ベースの黒いケースを背負って、軽く首を傾げている阿部くんがいた。
「あ、阿部くん!? あれっ? 今帰り?」
何となく、さっきまでの時間のことを知られたくなかったわたしは、咄嗟に慌てた声をあげていた。
「またテンパってる。どうしたの?」
そう言って、彼は無邪気な顔で笑うから、わたしは再び足元を見るしかなかった。
雪は、いつの間にか止んでいた。

