「ごめんね。落ちそうだった?」
「ん。ちょっとね」
「そっか。ちゃんとくっついてて」
「……うん」
温かい背中は、ペダルを漕ぐごとに少しずつ揺れる。
その度に、ずっとこうやっていたいという思いが増す。
しかし、駅裏の大通りに近づいてきたため、複数の車のエンジン音が聞こえ、建物や街灯の明るい光が見えてきた。
どうしよう。
まだ2人でいたい。
わたしはダメモトでもいいからと思って、
「ちょっと寄り道してかない? わたし歌下手だしカラオケ苦手なんだよね~」
と彼の背中に向かって言った。
すると、彼はゆっくりと自転車を止めて、わたしの方を振り返った。
「うん。どっか行きたいとこある?」

