「すんごい盛り上がってたね。人がたくさんいてびっくりした!」
「ね。でも、おれトシミちゃんのこと見つけたよ」
ちょうどアスファルトの継ぎ目の部分。
わたしの鼓動が大きく鳴るとともに、ガタンと自転車は上下に揺れた。
「でも阿部くん、ライブ終わった後、女の子に囲まれてたね」
とわたしが笑いながら言うと、
「え? まぁ、ほら、珍しいんじゃん? このへんライブハウスとかあんまりないし」
と阿部くんは返した。
ライン交換とかしたのかな。
あの女の子たちの中に、阿部くんの好みの子とかいたのかな。
そのうち告白とかされちゃったり、あの中から彼女できたりとかするんじゃないかな。
――そんなの嫌だ。
わたしが阿部くんのそばにいたいのに。
もっともっと、彼の心に近づきたいのに。
再びアスファルトの継ぎ目に乗り上げ、自転車は軽く揺れる。
「…………」
それと同時に、わたしは阿部くんをぎゅっと後ろから抱きしめていた。
何かを願うように、彼の制服の白シャツに顔をうずめた。
ほのかに感じる爽やかな香りが心地よい。
何の香水使ってるんだろう。
わたしたちが進む逆の方向に流れる風は冷たく、
阿部くんとくっついている部分だけが温かくて、確かなものだった。

