そしてライブ終盤。
「みんなー! 今日はここ、ライブハウス体育館に集まってくれてありがとう!」
というイケメン先輩のMCに対して、どっと笑いが生まれる。
ステージに向けた黄色い声援はそのイケメン先輩宛のものが多いようだけど、
「阿部く~ん!」
と、どこかの女子集団が黄色い声で叫んでいた。
阿部くんはチラッとその方向を見た後、軽く会釈をしたため、「可愛い~!」と更に女の子たちのテンションをアップさせていた。
その様子に頬を膨らませていたら、
ユカチンにていっと突かれたため、ぷーっと空気が抜けた。
最後の曲は、銀河鉄道に乗って星たちをめぐる、
あの有名な物語と同じ題名の曲。
その物語の世界観と、今は離ればなれの君を思う気持ちを重ね合わせながら、
感情的な叫びを切ないメロディーにのせて歌う。
さっきまで暴れてぶつかって手を挙げていたみんなは、
ゆらゆらと気持ち良さそうに曲に頭を揺らしている。
わたしは曲に浸りながらも、阿部くんの姿を一挙手一投足も逃さないように見つめていた。
彼が、遠いところにいってしまったような気がして不安だった。
間奏になると曲は転調し、バッハの『主よ人の望みの喜びよ』のメロディーを引用したギターソロをアシメ前髪くんが奏でる。
合わせて、阿部くんは4弦から1弦へと細かく指を運び、その美しい旋律に寄り添う低音を重ね合わせる。
パンク頭くんはビートを刻みながら、ところどころでタムやスネアドラムを連打し、みんなが奏でる感情を残さず拾い上げていく。
その間、イケメン先輩はステージに背を向け、両手を横に広げていた。
まるで天を仰ぐかのように、曲の世界に入り込んでいる。
――あれ?
間奏が終わる頃。
阿部くんはフロアに顔を向けていた。
何かを探すように、左右交互に視線を動かしている。
もしかして、わたしのこと、見つけようとしている?

