阿部くんは盛り上がり最高潮のフロアをチラッと見て、ちょっと驚いたようで軽く口元に笑みを浮かべていた。
たくさんの頭や手の奥。
盛り上がっているみんなやボーカルさんたちとは対照的。
ドラムやギターの方を向くことが多く、時々微笑みながらベースを弾く横顔はいつもにも増して格好良かった。
頭を下に揺らすたびに、ふわっと前髪が目にかかってちょっと色っぽい。
袖をまくった制服シャツから伸びる腕。
そこからあの細くて骨ばった手へのラインも綺麗。
左手はベースの弦を指を滑らせるように押さえ、
右手は親指を支点に人差し指と中指で流れるように弦を撫でる。
肘と手首の関節が動くたびに、細い腕なのにふっと軽く筋肉が浮かび上がっていた。
ステージ上のライトに照らされ、光がそれた瞬間にふっといなくなってしまいそうな儚さと、
奏でられている低音のように、心を強く優しく掴んでくれる確かさが同居している感じ。
わたしの中で甘い思いはどんどん生まれ、曲のメロディーや音とともに頭の中が埋め尽くされていく。
何だろう。
あの手にまた触られたい。
あの腕にぎゅっとされてみたい。
って、わたしは何を妄想しているんだ?
変態じゃん!
しかし、どんどん人でぎゅうぎゅうになっていく空間の中、
「あのベース誰? まじカッコよくね?」
「確か、1年の……。あーなんだったっけ~?」
という声も聞こえてきたため、わたしは少し焦った。

