「ねぇ」


屋上でぼんやり紅い空を仰いでいたら彼が立っていた。



見るつもりなんてないのに引付けられるように彼の綺麗さに目を奪われる。



彼の目からは、まるで何かを断ち切るような強い意志を感じた。




「武藤さん」


彼の細くて綺麗な手にはキャンバスが抱えられていて、そこにはもう一つの夕日があった。



黒くて残酷で、だけど甘美な彼の絵。



「本当は始めから知ってたんだ。前にも一度、君の絵を見た事があった」


淡々と話す君は一歩、私に近付いた。



「羨ましかった。君が描く夕日はあまりにも綺麗で、きっと君には世界が輝いて見えるのかって思ったから」




一歩、一歩、彼が近付いて私との距離が近付いた。





「君の絵が好き」


彼は綺麗に笑った。



「キミが好き」


嗚呼、なんて純粋な人なんだろう。


私はなんて醜いんだろう。


簡単に言ってしまった、好きだなんて。

私を本当に好きだと言ってくれる人に。










彼が足を止めた。








「な…何して…」
私は思わず叫んでしまった。



次の瞬間、彼はキャンバスを折った。彼が描いた絵が、最優秀作品が壊れた。だけど彼は何とでもないという風な清々しい顔をしてる。ましてや楽しそうに見える。




「ねぇ」




彼の言葉が始まりの合図。





「描いてよ」

















“始まりの前に”

(意味無いだなんて嘆かないで)